TEDから学ぶ組織づくり|アダム・グラントの「与える人と奪う人」が教える、"いい人"から先に辞めていく組織の法則
チームで一番よく人を助ける社員が、辞めると言ってきた。揉め事もなく、評価も悪くない。心当たりがないまま席を見渡して、ようやく気づく。彼が助けてきた相手の中に、一度も助け返さなかった人がいた。TED1,000万回再生の組織心理学者は、その1人の重さを数字で示しています。
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辞表を持ってきたのは、チームで一番よく人を助ける社員でした。
誰かと揉めたわけではありません。評価も悪くない。むしろ、困っている人がいれば自分の手を止めて助けに行く、部署の潤滑油のような存在でした。理由を聞いても、はっきりした答えは返ってきません。
心当たりがないまま、席を見渡します。そこで、ようやく気づくことがあります。
彼が助けてきた相手の中に、一度も助け返さなかった人がいる。
組織心理学者のアダム・グラントは、この現象を研究で説明しています。TEDトーク「与える人と奪う人」。1,000万回以上再生されたこの講演には、「いい人から先に辞めていく」組織の構造が、はっきりと示されています。
職場には3種類の人がいる
グラントは、職場にいる人を3つに分類します。
ギバー(与える人) は、「自分はこの人に何をしてあげられるか」から考えます。
テイカー(奪う人) は、「この人は自分に何をしてくれるか」から考えます。
マッチャー(帳尻を合わせる人) は、「してもらった分だけ返す」と考えます。
ここで押さえておきたいのは、大多数はマッチャーだという点です。
マッチャーは自分から空気を作るタイプではありません。周りの振る舞いに合わせます。丁寧に助け合う職場では助け合い、誰も助けない職場では手を出さなくなる。
つまり、その職場がどちらに傾くかは、大多数が決めているのではありません。ギバーとテイカーの、どちらの振る舞いが「通る」かで決まります。
この性質が、後で効いてきます。
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「いい人から辞めていく」のは、奪う人が1人放置されているから
グラントは、組織文化についてかなり踏み込んだ数字を出しています。
「テイカーが組織文化に与える負の影響は、たいていギバーが与える正の影響の2倍から3倍になる」
与える側と奪う側は、同じ重さで釣り合っていません。なぜ、これほど非対称なのでしょうか。
テイカーがチームに入ると、ギバーが助けるのをやめるからです。
助けても返ってこない相手が同じ部屋にいると分かった時点で、与える側は手を引きます。そして先ほどの話を思い出してください。大多数はマッチャーです。 周りに合わせる人たちは、助け合いが止まった空気のほうに合わせ始めます。
こうして、テイカー1人の振る舞いが、職場全体の基準になっていきます。
最後まで与え続けるのは、根が与える側の人だけです。返ってこないまま与え続ければ、消耗します。だから、いい人から順にいなくなる。
「いい人から辞めていく」のは、いい人が弱いからではありません。奪う人が1人、放置されているからです。
ここが、多くの組織が打ち手を間違えるところです。「もっと助け合える人を採ろう」「チームワーク研修をやろう」。こうしたギバーを増やす方向の施策は、テイカーが1人いるだけで打ち消されてしまいます。
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同じ「与える人」が、底にも頂点にもいる
では、与える人は放っておけば沈むだけなのか。ここに、打ち手を考えるうえで外せない事実があります。
グラントは、複数の職種で成績とこの3分類の関係を調べています。エンジニアの生産性、医学生の成績、営業担当の売上——測るものは職種ごとに違いますが、結果は同じでした。
最も成績が悪かったのは、どの職種でもギバーだったのです。
理由は単純です。人の仕事を手伝うのに忙しく、自分の仕事を終わらせる時間とエネルギーが尽きてしまう。グラントの説明では、最も仕事が進まずミスも多いエンジニアは、受けた以上に人へ手を貸している人たちでした。
ところが、話はここで終わりません。
最も成績が良かったのも、またギバーだったのです。グラントは、与える人があらゆる成功指標の最下層と最上層の両方に偏って現れる、と述べています。
同じ「与える人」が、底にも頂点にもいる。
この差はどこから生まれるのでしょうか。グラントの答えは、本人の能力の差ではありません。周りに誰がいるかです。
つまり、沈んだギバーを救うのに、その人を鍛える必要はありません。周りに誰を置くかを変えれば、同じ人が頂点の側に回ります。辞めていくのは底に沈んだ側のギバーであり、沈めているのは先ほどの1人です。
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「感じのいい人」と「与える人」は別物
では、そのテイカーを見つければいい——という話になりますが、ここに落とし穴があります。
グラントは、愛想の良さと、与えるか奪うかの間に相関がなかったと述べています。
「愛想が良いか悪いかは、外側の見え方にすぎません。あなたと接するのがどれだけ心地よいか、という話です。与えるか奪うかは、もっと内側にある動機です」
つまり、「感じのいいテイカー」が存在します。
物腰が柔らかく、会議での受け答えも角が立たず、上司の評価も悪くない。それでいて、人の成果を自分の手柄として持っていく。見た目の印象で探している限り、この人は一生見つかりません。
逆に、「愛想は悪いが与える人」 もいます。言い方はきついが、後輩の仕事を実際に良くしているタイプです。印象だけで判断すると、この人のほうが問題児に見えてしまいます。
グラントは、この見分けに使える質問を紹介しています。これまでのキャリアで根本から良くしてあげた相手を、4人挙げてもらう。それだけです。
テイカーは、自分より影響力のある人の名前を挙げる傾向があります。上に向かって与えるのは、見返りが期待できるからです。
ギバーは、自分より立場が下の人の名前を挙げます。返ってこない相手に与えているからです。
1on1でそのまま使える質問です。
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与える人を守るために、明日からできること
グラントは、ギバーは組織で最も価値のある人材だが、気をつけないと燃え尽きるため、守らなければならないと述べています。
守るための具体策を、3つに整理します。
1. 助けの流れを見えるようにする
誰が誰を助けているかを把握します。「あれはあの人に頼めばいい」が固定化していないでしょうか。
特定の1人に依頼が集中しているなら、その人は今まさに底に沈む途中です。評価面談では見えません。依頼の流れを見ないと分かりません。
2. 助けを求める側のハードルを下げる
グラントは、助けを求めやすい環境を作ることを勧めています。
頼み先が1人に偏るのは、「この人なら断らない」と全員が知っているからです。裏を返せば、他の人には頼みにくいということでもあります。誰にでも頼める状態を作れば、ギバー1人にかかる負荷は自然に下がります。
3. 増やすより、外す
「効果的な採用、選考、チーム編成とは、ギバーを入れることではありません。テイカーを取り除くことです」
これがグラントの結論です。
「いい人を増やす」は、コストのわりに効きません。負の影響が2〜3倍なら、1人減らすほうが数倍効率がいい、という単純な計算です。
外すというのは、必ずしも辞めさせることではありません。振る舞いを見過ごさない、成果の横取りをその場で正す、チーム編成を変える。放置しないこと自体が対策になります。
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まとめ:増やすのではなく、減らす
「いい人が辞めてしまう」と悩むとき、打ち手は「いい人を大事にする」方向に向かいがちです。表彰する。感謝を伝える。仕事量を減らす。
どれも無駄ではありません。ただ、グラントの研究が示しているのは、それだけでは足りないということです。
奪う人が1人いるだけで、与える人は与えるのをやめます。そして周りの大多数は、その空気のほうに合わせます。守るべきは与える人ですが、手を打つべき相手は別にいる、ということです。
最後に、次の1on1で使える質問を1つ。
「最近、誰かに助けてもらいましたか」
部下たちの答えに、同じ名前が何度も出てくるようなら。
その人は今、底に沈む途中かもしれません。
出典: 本記事は アダム・グラント「与える人と奪う人」(TED@IBM・2016年11月) を参照し、O2 CONNECTIVE編集部が独自の視点で構成したものです。引用箇所は同講演からの引用であり、出所を明示のうえ本文と区別して掲載しています(著作権法第32条・第48条。翻訳しての引用は同法第47条の6に基づきます)。
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