2026年10月13日by O2 CONNECTIVE編集部10分で読めます

ハラスメント研修を受けた翌日も、"指導"のつもりで怒鳴っている上司がいる|境界は本人以外が引くしかない

研修は満席だった。アンケートの満足度も高かった。その翌日、現場から「また課長が怒鳴っている」と相談が入る。当の本人に悪気はない。むしろ自分は丁寧に指導しているほうだと思っている。何度研修をやっても届かない相手に、人事は次に何を差し出せばいいのか。

ハラスメント研修を受けた翌日も、"指導"のつもりで怒鳴っている上司がいる|境界は本人以外が引くしかない

研修の翌日に怒鳴った上司は、ルールを忘れたわけではない。

むしろ内容はよく覚えている。「大声を出さない」「人格を否定しない」「他の社員がいる場で叱責しない」——テストがあれば満点を取るだろう。それでも翌朝、フロアに響く声で部下を問い詰める。本人に悪気はない。その人の中でその行為は、研修で習った「ハラスメント」ではなく「指導」の側に分類されているからだ。

「あれは指導です」——本人は本気でそう思っている

人事が本人に確認すると、返ってくる言葉はだいたい似ている。

「厳しく言いましたが、必要なことです」 「あの場で言わないと、本人のためになりません」 「自分も若い頃はこう育てられました」

これらは言い逃れではない。少なくとも、本人の主観においては嘘ではない。厄介なのはそこだ。悪意を持って部下を傷つけている人であれば、指摘すれば行動を隠す。しかし「指導している」と信じている人は、指摘されても何を直せばいいのか分からない。隠す動機すらないので、翌日も同じことをする。

同じ場面を、部下の側はこう記憶している。フロア全体が静まり返ったこと。名指しで能力を否定されたこと。誰も助けに入らなかったこと。

出来事はひとつなのに、記録が二通りある。そして本人が持っているほうの記録には、部下がどう感じたかという情報が最初から入っていない。

研修が配るのは禁止行為のリスト、現場で起きるのは自己分類

ハラスメント研修が扱うのは、基本的に知識だ。どういう言動が該当するのか、法的にどう位置づけられるのか、企業にどんな責任が生じるのか。受講者は理解し、理解度チェックにも通る。

ところが現場で実際に起きているのは、知識の適用ではなく分類である。

目の前の自分の言動を「指導」と「ハラスメント」のどちらの箱に入れるか。この仕分けを、本人が自分で行っている。研修はそれぞれの箱の中身を詳しく説明してくれるが、いま自分がやったことをどちらに入れるべきかまでは決めてくれない。

しかも、この仕分けが行われるタイミングが問題を大きくする。怒鳴っている最中に「これはハラスメントに該当するだろうか」と自問する人はいない。判断は事後に、記憶が整理されたあとで下される。そのとき参照されるのは、自分の意図だ。「相手のためを思っていた」という前提から遡って分類すれば、答えは常に「指導」になる。

知識が増えても行動が変わらないのは、知識が足りないからではない。知識を当てはめる対象——自分の言動が相手にどう届いたか——が、本人からは見えていないからだ。

境界は「意図」ではなく「受け手の状況」で決まる

ここで、法律がどこに線を引いているかを確認しておきたい。

労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)は、職場におけるパワーハラスメントを、次の3つをすべて満たすものと定義している。

  1. 優越的な関係を背景とした言動であること
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること
  3. 労働者の就業環境が害されるものであること

読み返してほしいのは、この3要素のどこにも「行為者にそのつもりがあったか」が入っていないという点だ。意図は要件ではない。

つまり「指導のつもりだった」という説明は、境界の内側にいることの証明にならない。判断されるのは、関係性・行為の相当性・相手の就業環境への影響であって、送り手の心の中ではない。

「業務上必要かつ相当な範囲」という言い方が示すのは、必要性があるかどうかではなく、必要性があってもやり方が相当かどうかが問われるということだ。指導すべき場面だったという事実は、大声で人格に触れてよい理由にはならない。

本人が自分の意図を基準に自己採点している限り、その採点は定義とかみ合わない。これは倫理観や性格の問題ではなく、参照している物差しが違うという構造の問題である。

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「自覚してください」と迫るほど、本人は身構える

では自覚させればいい、という話になる。人事が最初に打つ手は、たいてい個別面談だ。

しかし「あなたの言動がハラスメントに該当する可能性があります」と伝えた瞬間、多くの場合、相手は防御に入る。

理由ははっきりしている。この指摘は、行為への注意ではなく人格への評定として受け取られるからだ。「言い方を変えてほしい」ではなく「あなたは加害者だ」と聞こえる。そして人は、自分が悪人だと結論づけられそうになると、記憶を意図で上書きする。「あれは相手のためだった」という説明が、防御のたびに強化されていく。

その結果、人事は板挟みになる。証拠を集めて正式に指摘すれば処分をめぐる議論に発展してしまい、集めずにいれば何も変わらない。口頭での注意と正式な処分のあいだに、使える中間の段階がないのだ。

本当に必要なのは、白黒をつける前の段階だ。本人が「自分の言い方は、この相手にはどう届いているのか」を、責められずに確かめられる状態を指す。

本人以外が境界を引くには、何が要るか

自覚が自力で芽生えないのであれば、外側から情報を渡すしかない。ただし渡し方には条件がある。

  • 受け手側の感じ方が、本人まで届く経路があること。組織のどこかに情報が溜まっているだけでは、本人の分類は変わらない
  • 「あなたが悪い」ではなく「この相手にはこの伝え方が届きにくい」という形に翻訳されていること。人格評定に聞こえた時点で防御が始まる
  • 一度きりではなく、日常的に参照できること。年1回の面談で渡された指摘は、翌週には意図の記憶に上書きされる

O2 CONNECTIVEが提供しているのは、この3つを満たすための土台だ。

120問の診断で一人ひとりの思考特性を可視化し、その結果を人事だけが抱えるのではなく、上司・本人・同僚が相互に見られる状態にする。そのうえで、上司は相手を選んで「この部下にはどう伝えるべきか」をAIに相談できる。相手が何を強く受け止めやすいのか、どんな言い方だと萎縮するのかを、実際に言う前に確認できる。

これは怒鳴ったかどうかを裁く仕組みではない。裁く仕組みなら就業規則と相談窓口がすでにある。足りていないのは、裁く手前で自分の伝え方を確かめられる場所のほうだ。

第三者を介する意味もそこにある。人から指摘されると人格への評価に聞こえるが、データとAIを介すると「相手の特性についての情報」として受け取れる。同じ内容でも、防御が起動しにくい。

自覚のない上司を変えるのに、自覚から始める必要はない。伝え方を変えた結果として、後から自覚が追いつくこともある。

まとめ

研修を受けた翌日に怒鳴る上司がいるのは、研修の質が低いからでも、本人が不誠実だからでもない。

  • 研修は「何がハラスメントか」を教えるが、目の前の自分の言動をどちらに分類するかは本人に委ねられている
  • 法律の定義に「意図」は含まれない。「指導のつもりだった」は境界の内側にいる証明にならない
  • 自覚を迫るほど防御は強くなる。必要なのは、責めずに「相手にどう届いているか」を見せる経路だ

境界線を本人が引けないのであれば、本人以外が引ける状態をつくるしかない。処分か放置かの二択になる前に、間に置ける段階を用意しておきたい。

よくある質問

Q. ハラスメント研修は意味がないということですか?

A. いいえ。組織として基準を共有するために研修は必要です。ただし研修が担えるのは知識の伝達までで、「いま自分がやった行為がどちらに当たるか」という現場での分類までは扱えません。研修と、日常的に伝え方を確認できる仕組みは役割が別だと考えたほうが現実的です。

Q. 「指導」と「ハラスメント」の線引きはどこにありますか?

A. 労働施策総合推進法は「優越的な関係を背景とした言動」「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」「就業環境が害されるもの」の3つをすべて満たすものと定義しています。行為者の意図は要件に含まれていないため、指導する必要があった場面かどうかと、そのやり方が相当だったかどうかは別に判断されます。

Q. 本人に自覚がない場合、人事はまず何をすべきですか?

A. 相談が既に寄せられているかどうかで、順序が変わります。 相談を受けている場合は、労働施策総合推進法30条の2と関連指針が事業主に迅速な事実確認・相談者への配慮措置・行為者への措置を義務づけているため、これらが優先します。「まず伝え方を変えて様子を見る」という対応は取れません。まだ相談が寄せられていない予防の段階であれば、いきなり該当・非該当の判定を伝えると防御に入られるため、先に「この相手にはこういう伝え方が届きにくい」という具体の情報を渡し、行動が変わるかを見るほうが動きやすいです。データやAIの活用は予防と再発防止を補助するものであり、正式な手続きを遅らせたり置き換えたりするものではありません。

Q. 匿名アンケートで本人に伝えるのは有効ですか?

A. 内容次第です。感じ方を集めること自体は有効ですが、本人が「誰が書いたのか」の特定に向かうと、部下側のリスクが上がり逆効果になります。個人の告発としてではなく、相手の特性に関する情報として渡せる形になっているかが分かれ目です。


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